十字石 staurolite
(Fe,Mg,Zn)2Al9O6(SiO4)4(O,OH)2
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単斜晶系(斜方晶系に近い) 二軸性(−,+),2V=90°前後 α=1.739〜1.747 β=1.745〜1.753 γ=1.752〜1.761 γ-α=0.012〜0.014

形態/
粒状・短柱状。結晶片岩中のものは,時に周囲や割れ目からセリサイト化し,仮像になっている場合もある。

色・多色性/無色〜淡黄色〜黄褐色で明瞭。濃色のものは強い(X´=淡色,Z´=濃色)。
へき開/認められない。
消光角/柱状のものは結晶の伸びに対し直消光。
伸長/柱状のものは結晶の伸び方向に対し正。

双晶/(0 2 3)などの双晶があり,その双晶境界(双晶境界は湾曲していることもある)は柱状結晶の斜め方向で,結晶全体が十字型・X型に見える場合もある。

累帯構造/
褐色の濃淡の累帯構造がまれに見られる。

産状

主に泥岩起源の結晶片岩中の斑状変晶として見られ,白雲母・石英・藍晶石・黒雲母・アルマンディンなどと共生する。まれに苦鉄質岩起源の結晶片岩(角閃石片岩)中にも斑状変晶をなす。しばしば周囲や割れ目に沿ってセリサイト化し,仮像になっていることもある。また,結晶内部に多量の石英・長石類・黒雲母などの微細包有物を伴うことが多い。十字石は結晶構造が藍晶石構造の層とFe・Mg・Al酸化物の層が(0 1 0)に積層した構造で,内部に藍晶石構造を持つので,泥岩起源の結晶片岩では特に藍晶石と共生することが多い。

火成岩にはまれで,パーアルミナスな組成をもつ安山岩中に粒状で,アルマンディン,菫青石などと共生し,わずかに副成分鉱物として見られることがある。



結晶片岩中の十字石
St:十字石,Bt:黒雲母,Ms:白雲母,Qz+Fs:石英と長石類
褐色の濃淡の多色性が明瞭。角閃石類とは異なり,緑色を帯びることはほとんどなく,へき開も認められず,屈折率がやや高い。干渉色も1次の黄色程度までで低い。十字石は主に中圧型の泥岩起源の広域変成岩に見られ,このように内部に微細な長石類や石英などを包有しやすい。なお,緑れん石は褐味に乏しく干渉色が高く,泥質起源の結晶片岩よりも,苦鉄質岩起源の結晶片岩(緑色片岩・角閃石片岩)に多く産出する傾向がある。




肉眼で見た十字石を含む結晶片岩。暗褐色の斑状変晶をなす十字石が灰色の白雲母・石英・長石類からなるマトリックスに散在する。




結晶片岩中の十字石(双晶をなすもの)
St1・St2:十字石,Bt:黒雲母,Ms:白雲母,Qz+Fs:石英と長石類
十字石はしばしば十字型やX型の双晶をなし,肉眼でそのような特徴的な外形をなす場合がある。それは偏光顕微鏡下では,この画像のようにクロスニコルで互いの柱状結晶(St1・St2)が砂時計状のくびれた部分で組み合って双晶をなしているのがわかる(St1は消光位・St2は対角位)。この十字石は内部に長石類や石英などの他鉱物の微細な包有物を体積比で半分近く含んでいる。






安山岩中の十字石
St:十字石,Gah:スピネル(亜鉛スピネルとの中間体),Pl:斜長石
Alに富む泥質岩を混成したパーアルミナスな組成をもつ安山岩中の副成分鉱物としての十字石。かなり高温でできたもので濃黄褐〜褐色の多色性が著しい。なお,これは内部に濃緑色のスピネル(亜鉛スピネルとの中間体)を包有し,十字石自体も著量のZnを含む珍しいものである。この安山岩には菫青石・アルマンディンなどの高アルミニウム鉱物が一緒に含まれる。